インフルエンザ
なぜ、毎年、インフルエンザの流行が話題になるんでしょうか?
なぜ、毎年ワクチンを打つ必要があるんでしょうか?
特に、今年は新しいインフルエンザの薬が話題になっています。今までの薬と、どこが違うんでしょうか?
皆さん、このことを知りたくないですか?
今日は、これらのことをわかりやすく説明します。
「私は、風邪をひきました」。英語ではなんと言うでしょう?
英語で風邪は the flu といいます。動詞は、get もしくはcatchを使います。どちらでも同じです。「ひきました」は過去形です。ゲットはGet>got>gotten キャッチはcatch>caught>caught と変化します。
ゲットを使うと I got the flu. Catchを使うとI caught the flu. になりますね。
では、「私はインフルエンザにかかりました」というのは、どう言いますか?
I got the flu. もしくはI caught the flu. になります。
何故、英語の話から、始めたかというと「インフルエンザ」は特別な病気ではないということです。イメージとしては「ひどい風邪」という感じでしょうか。
英語では「私はインフルエンザにかかりました」と「私は風邪をひきました」は同じ表現になります。わざわざ、I got influenza, I caught influenza とは一般的に言いません。
インフルエンザは風邪なんです。「インフルエンザは何か特別なもの」と思っているかもしれませんが、風邪のひとつです。
何故、みんな冬になると「インフルエンザに注意!!」「早めにワクチンを打ちましょう」ってなるんでしょう?
その理由は2つあります。
第1の理由は、インフルエンザは普通の風邪より、重大な合併症が起きる頻度が高いということです。
もうひとつの理由は、インフルエンザのウイルスは非常に変異しやすく、大きな変異があると世界的な大流行になる恐れがあるからです。
インフルエンザの歴史
紀元前400年頃に、インフルエンザと思われる記載があります。11世紀には、明らかにインフルエンザの流行を推測させる記録があります。日本では、平安時代に流行らしき記録があり、江戸時代には「はやり風邪」と呼ばれていました。
パンデミックという言葉を知っていますか?流行が短期間に世界的に広がり、多くの人が感染することを言います。でも、なんといってもインフルエンザが世界的に有名になったのは、「スペイン風邪」と呼ばれる第一次世界大戦中のインフルエンザのパンデミックがあった時からです。
この時のインフルエンザは1918年にアメリカの田舎で発生しました。アメリカが参戦していたので、インフルエンザに感染していたアメリカ軍の一兵士とともにヨーロッパに渡り、西部戦線の兵士に瞬く間に広がりました。
世界の人口の30%、5億人が罹患して、5000〜6000万人が死亡したと言われています。
20世紀以降のパンデミック
20世紀における2番目の世界的な流行は、1957年に起きました。アジア風邪と呼ばれています。香港から始まり、東南アジア、日本、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパと広がりました。200万人が罹患したと言われています。1968年には、香港風邪と言われる流行があり、100万人が亡くなっています。
2009年には、みなさん覚えていると思いますが、新型インフルエンザが流行し、パニックになりました。
症状と合併症
インフルエンザの症状は、普通の風邪と一緒ですね。熱が出て、鼻水、咳、だるさ、関節の痛みなどなど、特別な症状はありません。
インフルエンザが普通の風邪より大変なのは、まず第1に重大な命に関わる恐れのある合併症があることです。重症合併症は肺炎、髄膜炎などですが、こどもで問題になるのが脳炎、脳症です。脳炎、脳症になると、様々な後遺症が残ることがあり、死に至ることもあります。
インフルエンザは変異しやすい
インフルエンザにはA、B、Cの3つのタイプがあります。人に流行するのはA型とB型です。A型は特に遺伝子変異が起きやすく、人に抗体ができても少しずつ変異して、新たな感染源となって毎年流行を繰り返します。
自動車がマイナーチェンジを毎年繰り返し、10年から数十年のスパンでフルモデルチェンジをするのとよく似ています。フルモデルチェンジした新型インフルエンザに関しては、誰も抗体を持っていないので、世界的な流行になります。
インフルエンザはもともとカモなどの水鳥の腸に共生していました。カモが渡り鳥として渡ってきて、アヒルや鶏と接触するうちに鳥インフルエンザが伝わり、さらに豚に感染し豚の鼻の粘膜で色々なタイプのインフルエンザが「遺伝子再集合」:(色々なタイプの遺伝子が集合して新しい遺伝子を作ること)して、人に感染するものが生まれます。また、中には鳥からヒトに直接感染する例も見られています。その変異により感染力の強い新型インフルエンザが生まれます。
インフルエンザワクチン
インフルエンザウイルスに対しての予防は、ワクチン接種があります。
毎年2月にWHO(世界保健機構)が専門家を招集して、北半球で摂取するワクチンにどの型を含めるか会議をします。それに基づき、各国が自国での状況を加味して、それぞれの国でつくるワクチンを決めています。卵にウイルスを摂取して増殖させ、それを採取、精製処理します。大量の有精卵が必要で、その繁殖の量が猛暑で少ない時、卵の成育が不十分な時など、外的要因に左右されます。
ワクチン接種によってある程度発病が予防できますし、重大な合併症を防ぐには十分な効果があります。
接種量は6か月から3歳未満で0.25㎖の2回接種、3歳から13歳未満で0.5㎖の2回接種。13歳以上は0.5㎖の1回接種です。卵を食べて大変重い症状の出る子は、要注意です。
こどもの場合、重症化予防に必要なだけの十分な免疫(抗体)ができるのは、2回目を接種した2週間後です。1回目は10~11月、2回目は11月中に接種するのがお勧めです。大体、効果は5か月くらい続くきます。
また出生前に母親が接種を受けると、生まれた赤ちゃんにも予防ができる作用があります。
インフルエンザに罹患した時の治療
インフルエンザそのものに対する治療薬があります。よく知られているものは、大きく2つあります。
まず宿主細胞内で増殖したウイルスの遊離を阻害するノイラミニダーゼ阻害剤です。ウイルスが、細胞から細胞へ感染・伝搬していくためには、ウイルス表面に存在するノイラミニダーゼが不可欠ですが、この作用をブロックすることで、増殖したウイルスが細胞外に出ていくことを阻止します。
また新しいタイプの薬があります。ウイルスが細胞の中で増えるにはmRNAの合成により、転写が行われる必要があります。このmRNAの合成を阻害する作用があるので増殖自体が起きません。
妊婦さんに対するインフルエンザの治療
妊娠中に罹患すると、合併症や重篤な症状をきたすリスクが高くなります。妊婦さんへの抗インフルエンザ薬の投与は、有益性がリスクを上回るとされています。妊娠初期の高熱と先天奇形(神経管閉鎖障害、心奇形など)との関連の指摘されているため、解熱剤の投与は注意する必要があります。
妊婦さんへの抗インフルエンザ薬のポイントをまとめると、以下の通りです。
- ノイラミニダーゼ阻害薬は、妊婦への投与で症例数が最も多く、安全性が報告されています。
- 吸入用のノイラミニダーゼ阻害薬は、母体の血中への移行はごくわずかとされ、胎児への影響は少ないと考えられています。
- アセトアミノフェンは妊婦に対しての安全性が確認されています。
- アセトアミノフェンの妊娠後期の使用による胎児動脈管収縮に関しては、エビデンスが非常に低く、現時点では否定的と考えられています。そのため妊娠中の解熱剤としては、アセトアミノフェンが推奨されます。
解熱剤について
解熱剤についてまとめます。解熱剤に関しては、アセトアミノフェンが安全とされています。サリチル酸やメフェナム系は投与しないことになっています。
よく知られているのは、インフルエンザと水痘の時にサリチル酸を投与して時に起きる脳浮腫と肝組織の脂肪変性・ミトコンドリア変性です。
小児に解熱剤を投与する場合は、アセトアミノフェン以外は使わないようにしましょう。
インフルエンザの隔離期間
もう一つ大切なのは、自分がインフルエンザにかかった時に他の人にうつさないことです。
みなさん間違えやすいのは、発症した日(熱が出た日)を0として発症した日から5日を経過し、かつ解熱した後(解熱した日を0として)学童以上は2日、幼児は3日経過するまで、感染の可能性があるということです。
「まとめ」
インフルエンザは、重大な合併症を引き起こす可能性のある病気です。
毎年、マイナーチェンジをするので、毎年、ワクチンで予防し、流行時には症状があったら受診しましょう。